「子どもにいつからどうやって性教育をするか」について、多くの親が難しさを感じるのではないか。大切なことだからこそ、伝え方が難しいと思っていた。性教育絵本はこれまでいくつか目にしたけれど、私が見たものはどれも、少し説明的だったり、「子どもが好むかな?」と感じるものが多かった気がする。
そんな中、編集さんから、著者インタビューしないか、と紹介されたのが、はまのゆか作『さわってもいい?』だった。
はまのゆかさんは、村上龍著『13歳のハローワーク』の挿絵で知られる絵本作家で、2児の母。はまのさんのお子さんが通っていた保育園で「いのちのおはなし会」という性教育講座に参加したことがきっかけで、この絵本を作ったのだそうだ。『さわってもいい?』は、自分の体を大切にすることをテーマにした絵本で、amazonなどでは「4歳からの子ども向けの生と性の絵本」と紹介されている。
小さな子どもたちの遊びの一場面に、自分の体もお友だちの体も大切にすることや、「いや」な気持ちを相手に伝えることが自分の体を守る大切な一歩だというメッセージが描かれている。はまのさんのやさしいタッチの絵によって、心にスッとメッセージが入りこんでくる。
こんなにやさしい言葉で、子どもにとっても大人にとっても大切なメッセージを伝えることができるんだ、と驚いた。
「No!」を言えないでいるとどんどん怖くなる
主人公のたっくんがいとこのえっちゃんとゆうちゃんの家に遊びに行ったときのこと。えっちゃんはふざけてたっくんのほっぺをつんつん、とさわって遊ぶ。たっくんはだんだんいやな気持ちになるのに、そのことをうまく伝えられない。そして・・・と物語が続く。
絵本の中でとくに印象深かったのは、たっくんがえっちゃんにほっぺを触られるのを「いや」と言えないでいるうちに、だんだんえっちゃんをこわいと思ってしまうこと。
これは、性被害を受けた経験のある人にはすごく共感できる部分だと思う。思春期以降、私は何度かちかん被害にあった。電車の中でちかん行為をされたとき、気づいてから「やめて」と言うまで、すごくこわいのだ。「えっ、まさか、触られてる?」と気づくと、脈が速くなり、怖くて身がすくむ。
自分の経験からも、そういう時には「やめて!」と言えるように子どもたちに教えたいと思っていた。
いざという時に「いや」「やめて」と相手に伝えられるようにするには、普段から自分の素直な気持ちを伝えられる環境があることが必要だと思う。
「No!」をはっきり言えるようにするには
でも、自分の子育てを振り返ると、子どもに「いやな時は『いや』と言っていいんだよ」、と言いながらも、
「おもちゃを貸してあげなさい」
「ごはんを残したらごめんなさいしようね」
「ごめんね、と言われたら、いいよって言おうね」
と、子どもの気持ちを無視して大人の都合を押しつけていたのではないか、と気づいた。
親になってから、子どもはしつけなければ、親が教えてあげなければ、と思いこんでいた私は、子どもの本当の心の声を聞いてあげられていなかったと思う。
子どもは「いや」と伝えても安全だ、とわからなければ「いや」を伝えられなくなる。
親子が「いや」と素直な気持ちを伝えあえる関係性でなければ、いざという時に子どもを守れないのではないか。
親以外の相手にもしかるべき時に「No」を言えたり、「自分はこう思う」と言えるようにするには、普段から子ども自身の気持ち、考え、思いを、受け止める必要があるのではないか。
親子がお互いに自分の考えを伝え、受け止められる関係を幼児期から作っておくこと。それが将来、子どもたちの体を守ることにつながるのかもしれない。
「いい?」と聞いて「いやだよ」「いいよ」と言い合える親子関係があれば、将来子どもがパートナーに「性的同意」を得ることのボーダーも低くなるかもしれない。
絵本を読み終わって、さっそく小学校6年生の次男に
「ねえ、ぎゅってしていい?」と聞いてみた。
「え、やだけど。」と次男。
もう思春期に差しかかる男の子。当然の反応だ。
「そっかー、じゃあしょうがないね。」私はあきらめた。
すると、夜寝る前に「ちょっとならいいよ」と、かなりのタイムラグで次男はハグのOKをくれた。
私は次男を「おやすみ」とぎゅっとした。
「いいよ」と言われてからするハグは、一方的にするハグよりも、きっともっと愛情が伝わっていそうだ、と感じた。