「今」を受け入れて、強く優しくなる! アレルギー育児に奮闘するママへのエール

「今」を受け入れて、強く優しくなる! アレルギー育児に奮闘するママへのエール

食物アレルギー児の子育ては、毎日が命の危険と隣り合わせ。ただでさえ大変な赤ちゃんとの生活に、食物アレルギーへの対応が加わると、時間的にもさらに忙しいうえに、緊張の連続でストレスを抱えるママも少なくないだろう。
年間200着ほど子供服を販売するハンドメイド作家、山本さん(仮名)の3番目の子、ケントくんは「即時型食物アレルギー(※1)」を持つ。今回は山本さんに、アレルギー育児の現状と、不安や悩みとの付き合い方についてお話を伺った。

山本さんのサイトにはセンスよくかわいらしいデザインの子供服が並ぶ。「作品は睡眠時間を削って作ってます。ケントと家族の食事を分けて作るからいつも時間がない!」という。「アレルギーの子が誤食して死亡する事故も他人ごとではない。だけど、少しずつ乗り越えれば必ず強くなれるから大丈夫!」と明るく笑う。子供服を作りながら、アレルギーの子どものお世話もこなす、彼女の強さと明るさは一体どのように培われてきたのだろう。

(※1)食物アレルギーとは、特定の食べ物に含まれる「アレルゲン(アレルギーの原因となる物質。ほとんどはたんぱく質)」に「免疫」機能が過剰に反応してしまい、体にさまざまな症状をおこすもの。(参考:meiji 明治の食育「知って!食物アレルギー ―食物アレルギーを知ろう―

戸惑いの連続の離乳食作り。牛乳は1滴、卵の黄身は耳かき1さじから

生後しばらく顔の赤みが引かなかったケントくんは、生後3カ月で「血中抗原特異的IgE抗体検査(※2)」を受け、卵、牛乳、大豆、小麦の食物アレルギーと判明。1歳2カ月で断乳してから本格的なケントくんの離乳食作りが始まったが、アレルゲンが混入しないよう細心の注意を払う必要があった。

「調理する鍋、食器、それらを洗うスポンジはすべて家族とは別。電子レンジも、ケントのぶんを作る前は内側を拭いていました。離乳食を始めたものの、豆腐やうどんなど手軽な食材は一切ダメ。この子にはいったい、何を食べさせればいいの?! とかなり戸惑いました」

原因食物を食べられる量には個人差があり、小児期に発症した食物アレルギーは成長により改善することが多いため、医師の指導の下、定期的に量を確認し、広げていくのだそうだ。

「月1回アレルギー外来に通い、食べられる量を報告します。原因食物1つにつき耳かき1さじほどの量から与え始めて、解除になる規定量(※3)を目標に体を慣らします。牛乳は3歳になった頃から。まず、1mlを1週間毎日与え、次の週は2ml、その翌週は3mlと、少しずつ増やすんですよ。1mlなんて、ほんの1滴(笑)。でも牛乳はまだ楽で、大変なのは卵。毎日15分以上加熱した卵の黄身を少しずつ与えるのは面倒で……毎日食べるのも飽きるし(笑)」

地道な努力の甲斐あって、1歳になるころには小麦は解除となった。3歳半となった現在は血液検査の数値も落ち着き、食材の種類も増やせるように。

(※2)個別の食物(アレルゲン)ごとの血液中の「IgE抗体」の量を測る検査。この数値が高い食物に対しては症状が出る可能性が高い。(参考:meiji 明治の食育「知って!食物アレルギー ―病院へ行こう―

(※3)食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017 p.8

サッポロ一番しょうゆ味には卵が含まれていない感動!

毎日の食材を選ぶにも、パッケージの表示に注意する必要がある。食品表示法では、消費者等に販売される全ての食品に食品表示が義務付けられている(※4)。

「買い物では、加工食品のパッケージの食品表示を必ず見ます。原材料に含有量が多いものから書いてあるので、『卵』が1番目にあったり、原材料の最後に表示されるアレルゲンに『(乳成分・小麦を含む)』とあったりするとNG。今の表示はよくできていてわかりやすいですよ」

「ラーメンの麺はほとんど卵入りだけど『サッポロ一番しょうゆ味』が卵不使用とわかったのは感動でした! 家族みんなでラーメンを食べたときのケントの嬉しそうな顔は忘れられません。あとは『はらドーナッツ』というお店にも卵不使用のものがあって、上の子たちと同じおやつが食べられて喜んでいました。そういう顔を見ると、自分が苦労しても、家族みんなで食べられるものを見つける努力はしたいな、と思います」

(※4)消費者庁「早わかり食品表示ガイド

神経質なほどだった山本さんの心を軽くした、夫のやっちまったエピソード

家族内では、食事のあとは家族みんな必ず手を洗うことを徹底し、常に床に食べこぼしがないか気をつけ、拭き掃除もこまめに行うなど、かなり生活に気をつけていた山本さん。

「誰かがチーズを食べた手で触れたおもちゃでケントが遊ぶと発疹が出てしまう。だからお友だちと遊ぶのもなかなか難しい。初めて会う人に説明するのがおっくうだったり、ケントがお友だちのお菓子を欲しがったりするから、あまり外に出なくなって、ママ友づきあいをする気もなれませんでした」

ケントくんのことを大事に思うあまり、人と関わることからも離れがちだった。しかしある事件がきっかけで、山本さんの心に変化が訪れる。

「ケントが3歳になった頃、家族でスーパーに買い物に行ったんですが、私がトイレに行っている間に、なんと夫がケントに卵入りのパンを食べさせてしまって……その時は大慌て! 夫はあまり深刻にとらえてなかったみたい。幸い、大事にいたらなかった。逆に、ケガの功名というか、ちょっとくらい食べても大丈夫だな、とわかったのはよかったです。

それに、親戚と旅行に行ったときも、小さい子たちの食べこぼしがそこらじゅうに散らばっていて。帰宅したら自宅のきれいさに気づきました。ケントは少し発疹が出たけど『外にはアレルギー物質があふれているんだから、少し掃除の手を抜いたっていい』って、思えて心が軽くなったんです」

悩みや現実を受け入れ、周囲の優しさに励まされ、少しずつママは強くなる

アレルギー育児を大らかにとらえられるようになると、自分自身のことや、もっと外にも目を向けたいと思うようになり、来年度は、上の子の小学校PTAの副会長に立候補したそうだ。

「この3年間気持ちが内向きになっていたけど、PTAに挑戦すれば自分の気も晴れるかな、と。もともと営業で、人と関わる仕事が好きだったんです」

「少し不安」と言いつつも、新たな挑戦にわくわくしている様子は、とても素敵だ。
今は前向きなった山本さんだが、以前は「この子をアレルギーに産んでしまった」と自分を責めたこともあったという。

「よくわからないと不安だし、ストレスもある。だけど受け入れると、楽になっていくもの。食物アレルギーや、不登校や、障害児……他にも、表に出さないけど、きっとママたちみんな悩みを持っている。私も大変だね、と言われるけど、真の大変さは当事者しかわからない。そして、当事者は現実を受け入れるしかない。今をどうにかするしかないんです。

一方で、人の優しさに感謝することが増えました。ママ友がケントも食べられるお菓子を持って遊びにきてくれたり、旅行先で旅館の方が特別メニューを作ってくれたりしたことも。意外に世間は優しいです。たまに夫や母が子どもを預かってくれ、リフレッシュする時間をもらえるのもありがたい。人に甘えられるようになったのもケントのおかげかな。」

日々、痛みに向き合い、困難を乗り越えたからこそ、強く優しくなれたのだろう。そのときは不安でつらくも、きっと自分の糧になると、山本さんの笑顔は教えてくれた。

(インタビュイープロフィール)
山本さん:39歳。大学卒業後、製薬会社で4年、外資系製薬企業で4年、MR(医薬情報担当者)として働く。
2009年10月、友人の紹介で知り合った男性と結婚。
2011年に長女、2014年に次女、2016年に長男を出産。
長女出産後にミシンを始め、ハンドメイド子供服を制作、販売している。
ハンドメイドサイト:https://minne.com/@happiko

<ライターはやなおの一言>
さとゆみライター講座4回目宿題。テーマは「何か一つ強みを持っている方へのインタビュー記事」(あれ、違ったかな。誰かの役に立つ、だったかな)。いろんなエピソードをあれこれ盛り込みたくて、軸がいまいちはっきりしなくなってしまった。一番は、アレルギー育児をするママたちが、なんとなく大変とは思いつつも、具体的にどういうところを注意しているのか知りたかった。命に関わることだから、本当に細かいことまで気をつけていて、これを毎日継続するのは想像以上に体力を消耗すると思う。周囲に頼ることってなかなか難しいけれど、本当に大事なことだと感じた。